遠見書房のメルマガ

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2012年11月29日木曜日

【反省会】『事例でわかる 子どもと思春期への協働心理臨床』

 
うわ,11月も終わりw
年をとればとるほど,1年が短くなっていきますが,なんか今年は,すんごい光速で駆け抜けたような気がします。

1年で20冊超の本を作っており,なんだか,もう大変なわりには,口座に預金はたまりません。不思議なものです。

それでも,徐々に売れているので,ありがたい限りなのですが,どうにも動かない本があります。
もちろん,これは売れないだろう,という見極めもあり,それでも,いろいろと細工をして,なるべく利益になるよう画策をしているわけですが,それにしても売れない本がある。
とても残念なのですが,
『事例でわかる 子どもと思春期への協働心理臨床』




これがあまり芳しくありません。

当社では,刊行から半年すぎた辺りで,印税をお支払いするのですが,そのときはいわば「売上印税」方式をとっております。つまり,売れた分だけ,印税を払おうというシステムですね。専門書には,ありがちな方式ですが,ともあれ,半年(で,書店から返品があるのですが)に売上を計算をいたします。

で,上記の本,あまり売れていないことが判明。
刷り部数の半分は売れてくれないと,青くなるわけですが,そこすら遥か遠いという状況です。

で,これがヒドイ本なのか,と自問するわけですが,そんなことはない。いい本だと思います。
子どもや思春期に関する7つの事例があり,それが「協働(コラボレーション)」のなかで,どう臨床心理士が動いたのか,それによって,どうクライエントや患者さんが変わったのか,ということがじっくりと描かれています。
また,編者の竹内先生による協働心理臨床での注意点やら理想やら思想,あるいはノウハウ的なものも多く書かれていて,相当に勉強になる1冊。そう感じています。
編集モノ,というと,読んでみると,内容がバラバラだったりすることも多いですが,この本には一貫した思想があります。コラボこそが,クライエントらを一番幸福にするのだという認識があります。

ですが……あまり売れない。

もちろん,「協働」というのが,売れないキーワードであることは承知しているのですが,それにしても売れない。
「協働」って大事なところなのに,あまり売れないのは,どういうことなんでしょう。

たとえば,この前も,ベテランのSCの方と話していて,SCにおける一番大事なスキルは,コラボとコンサルだと仰っていました。
現況のSCは,週1くらいで学校を訪問していますから,1vs1のセラピューティックな関係を作ること,多くの子と関係性を持つことは難しい状況があります。
だから,コラボレーションとコンサルテーションで,ほかの関係者たちとともに,子どもたちを導いていく必要があるわけです。
とはいえ,当然,こんな能力が最初から身についているわけもありません。臨床教育でこのスキルの向上のために使われている時間は,さほど多くはないでしょう。また,こうした力は,経験によるものが多く,簡単に伝達できるものでもない。成書もあまりありません。でも,コラボをやらないといけない現実があるわけです。

ならば,このコラボの本が売れてもいいのに,どうして売れないのか。
みんなできていると思っているのでしょうか…?

編者の竹内先生としんみりとしたメールをやりとりしていたのですが,竹内先生が仰るには,

1)そんなにやれていないのに自分はやれていると思っている人
2)自分でもあまりうまくやれてないと感じているのにあまり深く考えずに流している人

が多そうだということ。

そのうえ,

指導者たちが「インテンシヴなサイコセラピーこそが心理臨床活動の中核だ」と教え込みすぎる分,協働が周辺的テーマとして軽視されているのではないか?

とのことであります。

なるほど。

臨床心理士の仕事は,1)面接,2)検査,3)研究,4)地域支援となっており,コラボはこの4)にあたるはず。
1)や2)はホットなトピックスであり,3)もマニア?には喜ばれるわけですが,4)は……厳しい。

わが身を振り返れば,当然,ほぼ1人出版社などを率いているわけで,私にはコラボもコンサルもなく,そういうものが苦手だからこういう現状に漂着したところもあります。
多くの方が私のような人生を選択することはなかろうとは思うのですが,それであれば,ぜひ,この本『事例でわかる 子どもと思春期への協働心理臨床』をお願いしたい所存であります。

2012年11月7日水曜日

世界一素敵な臨床心理学の本

 
新しい本を出した。
本当に素敵な臨床心理学の本だと思う。

素敵?
素敵な専門書?
どういうこと?

「専門書」と言えるのかはよくわからない。少なくとも,小難しい専門書ではない。
でも,この本は,臨床心理士が書いたケースの本。いわば,事例研究的な本であることは確かだ。
読んでみたら,素敵な本であるということがわかってもらえると思う。

この本は10章あって,どの章も1つのケースを中心に語られている。10のケースの物語があるのだが,どれも素敵なのだ。涙を流しそうにさえなる。うれしくもなるし,切なくもなる。いろんな感情が揺さぶられる。
判断は読者次第だが,事例としてうまくいったものもあるし,そうでないものもある。それを含めて,なんと言うか,小説を読んでいるようなのである。

「小説を読んでいるよう」なんていうと,褒め言葉ではないかもしれないが,いや,これは本当に褒め言葉である。
もっと言ってしまえば,これは小説だ!と言ってもいいかもしれない。でも,これは小説ではない。専門書だ。リアルなケースの話だから。

文がいい。
とても素晴らしい。

レトリックの技術もさることながら,文の構成も素晴らしい。

この2つがそろっている。

時折,「小説」じみたケースの話を,ドヤ顔で読ませてくれる方がおられるのだが,そういう方は,この本を読むと,ちょっと赤面してしまうと思う。そのくらい,ちゃんと面白い。ちゃんとした商品として面白い。

どこかの文庫本になってもおかしくないレベルだと思う。

この本だ。

★★★

物語がつむぐ心理臨床
こころの花に水をやる仕事

三宅朝子著


心理臨床,心理療法のことが10章の,10のケースを通して語られる。そして,この10のケースは,周産期から高齢期,死の直前から選ばれている。つまり,人間の一生に寄り添いながら,セラピーをする意味が語られていると言ってもいい。
でも,それらの難しいことは物語の背後にあるので,まずは,小説を読むように,この本を読んでくれればうれしい。

とても面白い本です。さらさらっと読めると思います。

ホント,必読ですよ。