遠見書房のメルマガ

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2010年1月19日火曜日

製薬会社の闇

 
その昔、とある外国の著者が日本にきたいと言い出したことがある。講演をしたいというのである。そのひとの邦訳を担当していたので、訳者の先生が私に泣きついてきた。その先生は地方在住で、東京にはツテがない、だから会場を探してくれないか、というのである。
困った。
時間もなかった。
というか、ノウハウもない。
そもそも、お金が用意できない!
困った、、、と思っていたら、その先生が製薬会社のコネをもってきてくれた。そこで、私はその製薬会社の営業部長という人とコンタクトをとった。大きい会議室も用意できるという。シンポ形式でやるならば、その外国の著者にも、その他出席者にも、交通費を出してやろうという。
ありがたい! 思っていたら、
「来場される方の交通費は出さなくていいんですか?」
というのである。
え?
と思った。100人くらいは集まるんじゃないかという目算があったが、その100人の交通費まで出してもよい、というのである。
でも、100人といっても、東京周辺からの100人と、日本全国からの100人とじゃ、えらい差がある。だもので、どのくらいのお金が用意できるのか、と聞いたら、
「ええ、まあ、1人10万で,100人で,1,000万くらいですかね」
としゃあしゃあと仰った。

つか、その金でその本を刷った分全部買ってくれよ、と思ったが(半額で済みます)、結局、その外国の講師の方は来日ができなくなり、講演会も消えてしまった。残念というか、なんというか。

以来、製薬会社というのは、すげぇな、という刷り込みだけが残っている。
もちろん、その方がとってもえらい方だったのだろうとは思うし、その講演会の時期も今から十年以上前のことで、製薬業界も潤っていたということもあろう。今は厳しいらしい。

一方で思うのは、癒着、というべき問題である。EBMがしっかりと行なわれれば、経済的な医療が本当に進むと思う。我々は税金(社会保険なので税金とも言えないかもしれないが)として、医療を支えている。厚生労働省はいまや巨大な帝国である。国民皆保険である制度を守るためには、EBMによる誠実な運営を行なう必要があろう。
とはいえ、講演会で一人あたま10万を用意しちゃうようなことができる(できた)製薬会社と医師が、対等な関係を維持できるのは、とても難しいことだと思う。エビデンスがある、という研究には、どこからお金がでた研究なのか、明記する必要があるだろうし、実際、明記されるようになってきているらしい(よくわからないけれど)。PubMedの「要旨」にもついているのだろうか(よくわからないけれど)。
もちろん,新薬開発の恩恵と,そのコストも理解はできるし,患者としてはありがたい。しかし,現実にはなかなか難しい状況があるようである。

ともあれ,誠実さを追求した(?)EBMを推進している人たちのなかから、ナラティヴ・ベイスト・メディスンが生まれたのはとても面白いことだし、人間の美しさを感じさせる事例である。NBMに興味のないひとでも、EBMが良心に支えられていることを知っているひとは少なくない。

斉尾先生という方も、その一人である。精神科医である。真面目な人である。

で、斉尾先生は、製薬会社の問題を解説するような本を精力的に訳されている。

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で、最近訳されたのが、ビジネス書の一環なのか、こんな本ありました。

製薬業界の闇製薬業界の闇
斉尾 武郎

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営業部長の告発記録という感じのものですね。
斉尾先生からいただいて、じっくりと読んだのだが、製薬会社と医療の問題の根幹が一つわかったような気がした。巨大なシステムは、やはり、世界をよくはしない。
というか、営業部長、確かにこういう手記を書いたのはえらい。でも、給料もらいすぎだと思うわけです。いや、世界的な大企業なんだから、そんなものなのかな、という気もするけれど、でもなあ、こういう人たちの給料をキープするために、世界があるわけじゃないわけで。
なんか、社会運動家みたいなことを言っていますが。でも,そんな給料,ほしいけれど。

ともあれね、よくぞ、こういう本を出し、こういう本を書いた、という感じですよ。大丈夫かなという心配すらあります。いや、ほんと、製薬会社は巨大システムですよ。世界経済ですよ。グローバリゼーションですよ。一人の医者くらい簡単に消せるますよ。なんて思わないでもない。でも、正しさはちゃんと利益があるんだと思う。

おっと、玄関のベルが鳴ったぞ。こんな時間にだれだろ
 

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