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2009年5月11日月曜日

寿司パンとは何か?

 
その昔、当時の上司であったT氏と鳥取・米子に出張に行った。ブリーフサイコセラピー学会の総会で、本を売りに行くという旅である。出展会社が1社しかなく、しかも人気のある東豊先生が大会を仕切っていた(かのように記憶している)からか、動員も多く、無茶苦茶売れた。とても気分がよくなって、T氏と二人、寿司屋に入ったのである。よく知らない町のことであるから、駅前にあった江戸前風の寿司屋であった。

で、店に入ると「寿司パン」というのがあったのですね。何だろうという好奇心がむくむくと当然、持ち上がるわけです。寿司パンですよ、寿司パン。どうなっているのと。
シャリの代わりにパンの上にさしみが載っているという可能性もある。サーモンか何かでマヨネーズなんかをつけると案外うまそうですが、それ、カナッペでいいじゃん。
あるいは、ネタがパンという可能性もある。握り寿司の上に、フランスパン(ガーリック味)とか。ラーメンライスとか好きなんで、けっこうイケルかもしれない……。

値段は300円とか、そんなものであった。当然、注文する。

確か、私の記憶によれば、鳥取県は日本で一番パンを食う県である。なんかテレビか何かでそういう話を聞いたことがある。私は、それを思い出して、T氏に切々と(でもないけど)、だから寿司パンなのではないか、などと訴えた。でも、イメージはうまく実像を結ばない。寿司パンとは何か?

と煩悶(というほどでもないけれど)するあいだに、寿司パンがやってきた。

ま、解説すると、アンパンのアンコの変わりに、寿司飯(多少、ちらし寿司風)が入っているという代物でしたね。けっこう大きくて、ほんと、アンパン(木村屋謹製)くらいはありました。中の寿司飯もそのくらいの大きさで、おにぎり四分の三くらいの大きさでしょうか。パン生地自体はちょっと固め。

魚関係は入っていなかったような。
なんで、パンで包む必要があるのか、と強く感じたような。
それでいて、甘酸っぱい寿司飯と案外悪くない組み合わせだと思ったような。
とはいえ、酒の肴にもならないし、どういうタイミングで食えばいいのかと思ったような。

ま、案外、ぺろっと食ったわけですが、これ、入店早々に食べたわけです。炭水化物(×2)ですから、けっこう腹持ちもいい。せっかくの寿司(おごり)だったのに。。。これ、寿司屋的にはよくないんじゃないの、と思うわけです。女の子だったらお腹くちくなっちゃいますよ。


などということを思い出したわけです。
こんな本を読んでいましたら……。

天ぷらにソースをかけますか?―ニッポン食文化の境界線 (新潮文庫)天ぷらにソースをかけますか?―ニッポン食文化の境界線 (新潮文庫)
野瀬 泰申

新潮社 2008-12-20
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これは日経新聞のネット版に連載していたコーナーを書籍化したものに、また手を入れて文庫化したという本であります。
ま、タイトル読んでもよくわからないかもしれませんが、日経のサイトから読者に、たとえば、「天ぷらにソースをかけますか?」とか、「マメご飯は食べますか?」とか、「冷やし中華を何と呼びますか?」とか、いろいろと聞きつつ、「日本地図」を作る、食の方言を調査していくコーナー(「食べ物新日本奇行」)をまとめた本なのです。

まあ、これが面白い。
いや、なんかここのところ、面白い本によく当たるので、自分でも怖いくらいなのですが、この本もとてもオススメです。ま、勉強の本じゃないですけれどね。暇つぶしには極上です。

とても興味深い食の慣習がさまざまな地域で独自性がありつつも、つながり、妙な進化をしていることがわかるのです。それがインターネットという、まさにそれを調べるための道具を得て、とても多面的に描かれている。


時折、ジャーナリストの本を読むのですが、90年くらいから傑作が減ってきているような気がします。ま、新聞記者は本を出しても(アルバイトも)OKというような自由さが、そのころよりなくなってきたのかもしれませんし、新聞記者もサラリーマンぽくなってきたのではないかとも思います。ジャーナリズムに力がなくなってきたのは、そういうところにも原因があるかもしれません。

そういうところから見ると、本書は近年のジャーナリストの書いた本のなかでは白眉のものでしょう。地道な聞き・書きと、ネットの技術を駆使して、瞠目すべき結果を出しています。もっとも、紙媒体ではなく、ネットだからこそできたのかもしれません。
その意味では新しいジャーナリズムの形なのかなと思います。

なお、食べ物新日本奇行は、今も連載されているようです、

http://waga.nikkei.co.jp/play/kiko.aspx



さて、上記の本では、食文化として東日本と西日本がくっきりと分かれるとされています。
私、東京で生まれ、千葉で育ち、両親はともに数代前までさかのぼれる東京人(下町方面)ですが、この本を読んで、けっこう関西系の食べ方をしているのに気づいた次第です。カレーに生卵もするし、肉まんに辛子酢醤油だし……。うーむ。ただの悪食かも。

文人悪食 (新潮文庫)文人悪食 (新潮文庫)
嵐山 光三郎

新潮社 2000-08
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文人じゃないし、まんじゅう茶漬けなんかもしないんですけれどね。

 

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

こちらでは初めましてです。「精神科病院ではたらく。」管理人のnateです。その節はありがとうございました。レビューはもう少々お時間下さい。

「文人悪食」、コレ私の愛読書です。この本に出会って初めて、「同じ本を何度も繰り返し読み返す」ってことを覚えました。氏の食と文学に対する切り口の面白さに初めて触れたのは、NHKの確か「食は文学にあり」という題の数回シリーズものの番組でした。で、その後アルバイトをしていた図書館で偶然に「素人包丁記」を手に取り、そこからはあれよあれよと言う間に嵐山流倒錯的食文学の虜になりました。

彼の文章は旨そうで困ります。それもちょっとだけ不健全な、ほんのりと暗がりのあるくせにどこかスカッと突き抜けた風味の、依存性のある隠し味を含んでいるのでなお困ります。そのせいかどうか知りませんが、素人包丁記のうち1冊は、愛犬がおやつにしてしまいました(笑)

数年前に鴎外と西周の故郷を旅したことがありますが、やはりと言うか、残念ながらと言うか、彼の地には饅頭茶漬けを食う習慣はありませんでした。その代わり、素朴ながらも飽きのこない旨いお茶に出会いました。遠見書房主様も機会があれば是非ご賞味下さい。このお茶で蕗の佃煮なんかをお供にお茶漬けをすると格別ですよ。

なんだかキリがないので、この辺でやめておきます。思いも掛けず夜中に嵐山食文学について独りで盛り上がってしまったので、せっかくなので近いうちに改めて自分のblogのエントリとしてまとめてみます。

長文で失礼いたしました。

遠見書房主 さんのコメント...

nateさん

どうもです。
コメント、ありがとうございます。

嵐山光三郎さんは面白いですよね。私もけっこう読んでいます。

鴎外と西周の故郷といえば、津和野ですかね。
津和野は行ったことがありますよ。10年以上前ですが。ですが、津和野のお茶は飲んでいないです。

饅頭茶漬けは、鴎外の潔癖症から来ているんだそうですね。まあ、先刻ご承知のことでしょうが。
「あんこ雑煮」の地域(香川が有名ですが、山口や鳥取もそうらしいって、津和野は島根ですが)も近いから、それとのつながりもあるかもしれません。
というか、ただの手洗い強迫っぽいものかもしれませんが。

遠見書房主