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2009年3月30日月曜日

専門書における専門性と奇書と偽書

 
専門書出版に携わる編集者は、専門家ではない。なかには専門教育受けてきたものもいないわけではないが、それはいいところマスタークラスのことであって、「専門家」というほどのものではない。ここが頭の痛いところなのですね。
かくいう遠見書房主も、臨床心理学の専門教育を受けてきたわけではありません。でも、臨床心理にはけっこう詳しいつもりですが、じゃあ、臨床心理士資格試験のペーパー試験(一次)を受けれたとしたら(まあ、そもそも単位も修士号もないので無理ですが)、通る自信はあるかと言えば、まあ、ございません。やたらと先端のことを知っていても、基本的なことは知らないというところがあるのではないかと自己分析しています。まあ、編集者稼業というものはそういうものでしょう。

というような危うい編集者に、ある方が書籍の原稿を持ち込んできたとします。
たとえば、所属はある大学の教員だったりし、タイトルもなんとも専門的。原稿もさらさらと読んでみたところ、さほど問題も感じない。教科書としてかなりの部数を買ってくれる予定……などなどといった素晴らしい条件がついていたりする。
当然、経営的にも営業的にもまったく問題はない。さっそく本を作ることにする。で、作る。

……

……

ところが、できたものを世に送り出してみたら、「まったく噴飯ものの内容だ!」というようなコメントがついたり、学術的な内容としていかがなものか、という疑義がついたりする!!

──こういう経験は今のところ幸いというか、運良くないのですが、可能性としては当然ありうるわけです。

たとえば、歴史書に有名な、『東日流外三郡誌』という偽書があります。

東日流外三郡誌〈第1巻〉古代編 (1984年)東日流外三郡誌〈第1巻〉古代編 (1984年)
小館 衷三 藤本 光幸

北方新社 1984-03
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「青森県五所川原市在住の和田喜八郎が、自宅を改築中に「天井裏から落ちてきた」古文書として1970年代に登場した。数百冊にのぼるとされるその膨大な文書には、古代の津軽地方には大和朝廷から弾圧された民族の文明が栄えていた、という内容で、有名な遮光器土偶の姿をした「荒覇吐(アラハバキ)」神も登場する。」

なんていう感じのものなのですが、これが、相当な論争をした挙句、偽書だということが判明。論争書がかなり出ています。

担当した編集者が専門家だったわけではないにしろ、それなりに歴史には詳しいものが選ばれたのではないかと思います。でも、編集者は資料そのものに当たるわけではなく、著者から間接的に話を聞くだけなので信用してしまうという面もあるのでしょう。
まあ、眉唾と思いつつも、確信犯的にやってしまう会社もありますが。
でも、自分だったら、相当ショックだろうなあ。もうだれも信じられないなどと居酒屋でのた打ち回ること必定。

さて、「偽書」なり、「噴飯もの」の本ができたとします。批判があることは問題はないのですが(まったく批判のない本なんて面白くいないですからね)、内容が不適切であり、廃棄処分が必要になるような本が出てきたとします。上のような偽書はなかなか出会えないでしょうが、学術的にどうよ、というものはけっこうあるような気がします。
こうなると……本当に困ります。困るというか、なんというか。
多くの噴飯ものの本は、執筆者の不勉強で起こることが多いような気がします。あるいは、妄想によって。文献を広く収集し、新規の仮説や発想については必ず吟味をすることで、噴飯化は防げるでしょうし、編集者としてもそこをチェックすれば大やけどすることは何とか避けられそうです。時間がとてつもなくかかりますが。
しかし、あらかじめ悪意のある「偽書」については、なかなか大変です。上の偽書は「資料」から捏造された大掛かりなものでした。悪意があったのか、それともすべてが妄想の産物なのか、まったくわかりません。
それと昨今の問題では、「なりすまし」もちょっと気になります。
以前、米国の医療の悩みに医師が答えるサイトで、質問者や読者の一番人気だったのが、実は十代の少年だった、、、というような事件もありました。とても丁寧に答えてくれていたんだそうですね。しかも、けっこうクリニカルに。
もし、この少年がQ&Aを本にしたいという持ち込みがあったら、受けるところもあったかもしれませんね。執筆者本人に会わないで本ができてしまうこともありますし。

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プロセス研究の方法 (臨床心理学研究法 第 2巻) (臨床心理学研究法)プロセス研究の方法 (臨床心理学研究法 第 2巻) (臨床心理学研究法)
岩壁 茂

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いま、この岩壁茂さんの「プロセス研究」を読んでいるのですが、「噴飯もの」にならない研究の方法が書かれている気がします。院生以上向けの内容ですが、標題以上のことが広く書かれているので、論文執筆を検討されている方はぜひご一読を。
それから、よく最近学会シンポなどで「長老」クラスの方をお招きして、その臨床センスを対談などで語ってもらう──というような催しがありますが、それはまさにプロセス研究なので、インタビュワーの方には読んでもらいたい文献です。

で、次に読もうとしているのが↓です。

質的データ分析法―原理・方法・実践質的データ分析法―原理・方法・実践
佐藤 郁哉

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って、なんだか、新曜社さんの回しもののようですが。。

 

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